乾癬とは
乾癬（かんせん）は、皮膚に赤みや鱗状の発疹が現れる慢性的な皮膚疾患であり、日本では数百万人の患者が存在すると言われています。乾癬の症状は、皮膚の一部が赤く腫れ、その上に銀白色の鱗状の皮が形成されることが特徴となっています。症状の重さや範囲は人それぞれで、軽度から重度までさまざまです。
乾癬の原因
乾癬の正確な原因は明らかにされていませんが、いくつかの要因が絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的要因
乾癬の家族歴がある場合、発症リスクが高まることが知られています。
関連遺伝子の同定
乾癬に関連する遺伝子や遺伝子領域が特定されています。これらの遺伝子は、免疫応答、皮膚のバリア機能、炎症の調節など、乾癬の発症や進行に関与する生物学的プロセスに関与していることが多いです。
家族歴の重要性
乾癬の家族歴がある人は、乾癬を発症するリスクが高まることが知られています。これは、家族内で共有される遺伝的要因が乾癬の発症リスクを増加させることを示唆しています。
遺伝子と環境の相互作用
単に遺伝的要因だけで乾癬が発症するわけではありません。遺伝的背景を持つ人でも、外部の刺激やストレス、感染などの環境的要因が絡むことで初めて症状が現れることが多いです。遺伝子と環境が相互に作用して乾癬が発症すると考えられています。
免疫系の異常反応
乾癬に関連する遺伝子の一部は、免疫応答を調節する機能を持っています。これらの遺伝子の変異や変動が、免疫系の異常な活性化や炎症反応の促進に寄与すると考えられています。
要するに、遺伝子的要因は乾癬の発症リスクを増加させる可能性がありますが、乾癬の発症にはその他の環境的要因や生活習慣も影響してくると考えられています。遺伝子的背景を持つ人は、乾癬の予防や早期発見のために定期的な皮膚のチェックや専門家との相談を検討すると良いでしょう。
免疫反応
乾癬は自己免疫疾患の一つとされ、体内の免疫系が正常な皮膚細胞を攻撃することが関与していると考えられています。
T細胞の過剰な活性化
免疫系の中でも特にT細胞（特にTh1、Th17というサブタイプ）が乾癬の発症と進行に深く関与しています。通常、T細胞は体を守るために活性化され、病原体や異常な細胞を攻撃します。しかし、乾癬の場合、これらのT細胞が誤って正常な皮膚細胞を攻撃的に対応することが示唆されています。
炎症性サイトカインの産生
T細胞の活性化に伴い、炎症を促進するサイトカイン（例: TNF-α、IL-17、IL-23など）が過剰に産生されます。これらのサイトカインは皮膚の炎症を引き起こし、角質細胞の異常な増殖を促進します。
皮膚細胞の増殖
上述のサイトカインの影響により、皮膚の最外層を形成する角質細胞（ケラチノサイト）が通常よりも早く増殖します。この異常な増殖が、乾癬特有の鱗状の発疹や厚くなった皮膚の形成に寄与します。
血管の拡張
炎症反応に伴って皮膚の血管が拡張し、皮膚の赤みを引き起こします。これは乾癬の症状の一部としてよく観察されます。
このように、乾癬は免疫系の異常な反応が炎症、皮膚細胞の増殖、そして皮膚の変化を引き起こすことによって、症状が現れると考えられています。現在の乾癬治療の多くは、これらの免疫応答や炎症性サイトカインを標的として効果を発揮するものが多いです。
外部の刺激
皮膚への物理的なダメージや感染症、ストレス、特定の薬剤の使用などが、乾癬の発症や悪化のトリガーとなることがあります。
ケブネル現象（Koebner phenomenon）
この現象は、正常な皮膚に物理的なトラウマ（摩擦、擦り傷、切り傷など）が加わることで乾癬の症状が新たに現れる、あるいは既存の症状が悪化することを指します。物理的なダメージにより、皮膚のバリア機能が低下し、免疫応答が亢進すると考えられています。
乾癬
特定の感染症（例：咽頭連鎖球菌感染）は、乾癬の一種である細菌感染性乾癬の引き金となることが知られています。感染に対する免疫反応が、乾癬の免疫応答を誤って刺激するという仮説が提唱されています。
ストレス
精神的なストレスは、免疫系のバランスを乱す可能性があり、これが乾癬の症状の発症や悪化を促すと考えられています。ストレスは、炎症を引き起こすサイトカインの放出を増加させることが示唆されています。
薬物の副作用
一部の薬物（例：リチウム、抗マラリア薬、高血圧治療薬など）は、乾癬の症状を引き起こすか、または既存の症状を悪化させることが報告されています。これらの薬物は、免疫反応の変化や皮膚細胞の生物学的反応に影響を与える可能性が考えられます。
皮膚のバリア機能の低下
乾燥や刺激物質の接触など、外部からの刺激が皮膚のバリア機能を低下させると、刺激物質やアレルゲンが皮膚の深部に容易に進入することができ、これが免疫応答を誘発する可能性があります。
これらの外部の刺激は、特定の個人や状況下で乾癬の症状を引き起こすか、悪化させるトリガーとなり得ます。しかし、すべての乾癬患者がこれらの外部刺激に対して同じように反応するわけではないため、各患者の特定のトリガーを理解し、それに応じて適切な対策を講じることが重要です。
乾癬の対策
乾癬には、以下のような基本的な対策が有効です。
外用薬
ステロイド外用薬やビタミンD3誘導体など、炎症や細胞の増殖を抑える薬が処方されることが多い。
内服薬
重度の場合や外用薬だけでは効果が得られない場合には、免疫系の反応を抑える内服薬が処方されることがあります。
光線治療
UVB照射などの光線治療が、症状の改善に効果的であることが知られています。
バイオロジックス
最近では、乾癬に関与する特定の免疫反応をターゲットとしたバイオロジックスという治療薬が登場しており、多くの患者さんに効果をもたらしています。
バイオロジックス（biologics）は、生物学的に合成された治療薬のことを指します。これらは、通常の化学合成薬とは異なり、生きた細胞を使用して生産されるためこの名が付けられました。バイオロジックスは、患者の体内で特定の分子や細胞に作用することで、疾患のメカニズムに直接介入する能力を持っています。
高度に特異的
バイオロジックスは、特定のターゲット分子や経路に非常に高度に特異的に作用します。これにより、副作用のリスクを減少させつつ、効果的な治療を提供することが期待されます。
生活習慣の見直し
ストレスの軽減、アルコールの摂取制限、健康的な食生活などが推奨されます。
まとめ
乾癬は慢性的な皮膚疾患であり、その原因や症状は人それぞれ異なります。遺伝や免疫反応、外部の刺激が絡み合って発症することが多いです。対策や治療方法は多岐にわたり、自分に合った方法を見つけるためには、皮膚科の専門家との相談が不可欠です。健康な皮膚を維持するためには、日常生活の見直しや適切な治療が大切です。